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グレイプバイン/田中和将 July 15, 2005

●“13/0.9”(8月24日リリースのニュー・アルバム『déraciné』1曲目)、このタイトルは何て読むの?
「(笑)これはとりあえずノリで付けたタイトルなんですけど。『じゅうさんスラッシュれいてんきゅう』とか普通に読んでもらえれば。まぁ面倒くさかったら『じゅうさん』でも『サーティーン』でもいいんすけど。これ、ぶっちゃけた話、煙草の歌なんです」
●<肺を染める色なんて想像しない>という歌詞もあるんですけど、そうやって世の中をみんな平たく規制して行くという窮屈さに対して憤りを感じているわけですか。
「憤りを感じますね、やっぱね。自分の健康もちょっと心配になりますけど、やっぱり憤りは感じます。どんどん肩身狭くなってるじゃないっすか。空港の扱いとか酷いでしょ。ちょっと前までこんなことなかったのに、ここ最近急に、ほんまにどういう扱いなんやと」
●田中くんって昔から規制されることや勝手に線を引かれることに対して、嫌悪感を持ってきたタイプ?
「いや、割と『しょうがないかな』くらいの視点で見てたつもりではあるんですよ。でもなんかね、煙草とか急過ぎません? 徐々にだったらまだしも、ここへ来て非常に急展開してるので、そこがムカつくんですよね、手のひら返されたみたいな感じが! 俺、『W杯で急に増えるにわかファン』みたいなのが凄い嫌いなんですよ、手のひら返したように見えて。それと近いノリを感じるんですよね(笑)」
●グレイプバインもここまで長い間活動してきた中で、急に上がった瞬間や、「ずっとやってきたのにどうしてこの1曲だけみんなに聴かれるんだ!?」という瞬間を味わってきたと思うんですね。
「そうですね」
●そういう時って、自分らの音楽が本当に届いてるかどうかに対する不信感みたいなものを持ったりしたこともあった?
「まぁ、うん、ありますねぇ。ただあんまりそういうところって表に出したらあかんのやろなと思いつつも(笑)……そうですね、ないではないです、ええ(笑)」
●(笑)。実は今日は、田中くんに一つお許しを請わなきゃいけないことがあって。この番組、『discord』って言うんですよ。これは、自分が初めてパーソナリティをやる番組ということで凄く気合いを入れて付けたタイトルなんですけど、付けて1ヶ月くらい経った時にスタッフと「そういえばグレイプバインに“discord”っていう曲あったなぁ」って話になって。
「うんうんうん、あります(笑)。困るんですよねぇ!!」
●(苦笑)。
「いやいやいや(笑)、全然使ってください」
●ありがとうございます(笑)。田中くんは“discord”っていうタイトルをどういう意味合いで付けたんですか? 僕の場合は世の中と摩擦を起こしたいっていう意味なのね。最近、世の中が非常に悪い意味ですんなり来てるというか、「まぁいっかー」みたいな時代感が漂ってると思うので、「そうじゃねえだろう!」っていう意識を込めてこの番組名を付けたんです。
「うん、この曲の中に<いっそ/全て壊す/爆音のディスコードで/奏でてみたいが>みたいな歌詞があるんですけど―――まぁその後でちょっと否定してますけどね(笑)(*<奏でてみたいが>の次には<おかしくない?/恥ずかしくない?>という詞が続く)。『そんな自分がちょっと恥ずかしい』みたいな感じで(笑)。僕はそういう歌詞が多いですけど」
●多いですよね。この曲に限らず、1曲の中に突っ込みとオチの両方を盛り込むという。これはご自分の性格を反映してるんですか。
「そうでしょうね(笑)。なんか勢いのよいことを書いてみたくもなって書いてみたりもするんですけど、その後でちょっと恥ずかしくなる自分も歌詞に投入してしまう感じですね(笑)」
●よくあるパターンとしては、「2005年は全部ぶちまけるぞ」ってぶちまけて、2007年くらいになって「まぁ言ってはみたものの……」という感じで発想の転換をして………ということを繰り返すわけですけど、田中くんの場合は1曲の中でそれをやり切るんだよね。
「そうですね。割と1曲の中で『はっ!』と気付いて違うこと書いたりしてますね。なんでなんでしょうねぇ……まぁそういう性格なんですかね。……歌詞はかなり時間かけるんで。もの凄いリライト繰り返すんで。最初ちょこっと書き始めてみては一人歩きを待つんですけど。で、書いてはみたものの次の日に大幅に変えてみたりとかもしますしね。どの程度初期衝動的なところを残すのかとか、どういった形で残すのかとか、いろいろ考えますねぇ」
●自分の作品を作ることや自分の歌いたいことを言葉にして行くということに対して、最初の頃から客観的な視点を持って作っていたんですか?
「なるたけ客観的になろうと思って作ってますね。というのは、自分でグッと来る歌詞にしたいんですよ。自分がこれから長いことライヴなどで演奏して歌って行く上で、いろんな解釈もして行きたいですしね」
●レコーディングの時はメンバーに歌詞の世界観を説明するわけ?
「いや、まったく説明しないです(笑)。もう10年くらいやってますけど、いまだに歌詞を間違って覚えてる人がメンバーにいっぱいいますけどね」
●はははははは。
「『あれってああ歌ってるんじゃなかったの?』みたいな(笑)。内容なんかもう(個人の)取り様やから、全然わかんないと言えばわかんないでしょう」
●でも、グレイプバインは全員が曲を書くわけじゃないですか。そういう意味では音楽をクリエイトして行く意識が凄く高いバンドですよね。
「と思いますけどね。だから凄いみんな熱心ですよ、やっぱ」
●今回、まずシングルで“その未来”がリリース(7月20日)されるんですけど、この曲は非常に突破力があるし、衝動的な音が鳴っている。そしてその中で強い言葉をたくさん歌っている。そういう意味で、ここでバンドのギアを高速に入れ替えたようなイメージがあるんですけど、そういうことはどれくらい意識的にやったんですか?
「今回に関しては割と意識したほうですね。亀井(亨/Dr)くんの持ってきた曲もありそうでなかったタイプだったりして、結構バンドにとっては『おお、これは新しいんじゃないか!』っていうところもあってですね。……今回何が一番新しかったって、『シングルでアッパーな曲を出そうじゃないか』という話し合いを珍しくしまして。それに基づいて(笑)。まぁ、そういう話し合いをしたことは過去に何度かあるんですけど、なかなか上手いこと行かなかったりするわけですよ。『今回はちょっとロックな曲をシングルにしようよ』みたいな話をしても、なかなかいいのが出てこなかったり(笑)。で、違うタイプの曲がシングルになったりすることが多かったんです。でも今回に関しては速い(曲調の)やつをシングルにしてライヴで使える、即戦力的なものにしようというもくろみが、上手いこと行ったんです」
●過去のそういう、「突っ走ろうぜ」って気持ちが作品にならなかった時と比べて、今回はどれくらい想いが違ったんでしょうね。
「想いと言うかね、今回は具体的だったんでしょうね、『ライヴで即戦力』っていうのが。今までは『ミディアムなシングルばっかりやから、たまにはアッパーなシングルを出そう』くらいの話し合いだったんですけど、今回はライヴで盛り上げるコーナーとか……ライヴをやってると痛感するんですよ。後半のほうでアゲアゲになって行く時に、メニューを見てみると大体アルバム曲かカップリング曲で構成されててですね(笑)、シングル曲が一つも入ってこないっていう状況になるんで」
●ファンの中では熱くなれる曲が決まっていたりするから、その場では完結はするんだけどね。
「そうなんですよね、だからコアなお客さんはそれでもいいと思うんですけど、たとえばイベントなんかに出るとシングル集しか持ってないなんて人もいっぱいいるでしょうから、そういった時になかなか厳しいものがあるんじゃないだろうかと(笑)。たまにフェスとかで、ミディアムなシングル曲をやってイントロが鳴った瞬間にワーッと湧いたりするわけですよ。でも、せっかく湧いてくれたのはいいんですけど、残念ながらしっとりした曲なんだよ申し訳ない!……みたいな感じでやっとるわけですよ(笑)」
●ははははは!
「そういうんじゃない曲を、たまにはシングルにしたいなと」
●アルバム全体からも感じたんですけど、自分らの興奮させるような部分や攻撃的な部分をもう一度世に放ちたいという気持ちがあったと思うんですよね。そうなった要因は―――今の世の中の状況に対して攻撃的な気持ちになったのか、それとも、長い間活動してきたことでバンドが安定しているように見られるのは冗談じゃない、と自分らの状況を打破したいという思いからそうなったのか。田中くん的にはどっちでしたか?
「どちらも含んでますね。世間的にもそうでしょうし。今回ライヴへの意識が高いということは、やっぱり外に向けたいということだと思うんですよ。いわゆるコアなお客さんだけではなく、これから初めて観てくれるであろうお客さんを意識してという。そういう意味では外に向けたいなという意識は強かったでしょうね」
●さらに細かく言うと、激しくていいメロディのロックが最近あんまり聴こえないじゃないか、という意味なのか、もしくは、「世の中がdiscordしてないぞ、だからこそ俺達がこの歪んだ音と硬いビートで摩擦を起こすぜ」みたいな気持ちなのか。その辺はどうですか。
「そこまで大層には考えてないですけどねぇ(笑)。まぁでも、こういう曲でこういう音でこういうことを歌えるのは僕らだけなんじゃないかとは思ってるんで。弱いか強いかはわからないですけど、結果少しでも一石投じられるようなカタチになればいいと思うんですけどね」
●アルバムを聴いた印象を語らせてもらうと、田中くんの中で音楽をやる意味とか自分らの作品を届ける意味がちょっと変わったんじゃないかと思ったんですね。というのは、歌詞の部分で、以前と比べてもう少し包み込んであげてる感じがするんですよ。それは田中くんの文学性が増したとか減ったとかいうことじゃなくてね。……ほら、文学って言い逃げができるものじゃない。
「ああ、そうですね」
●書くだけ書いて「あとはみんな勝手に判断してくれよ」ってことが許されるものだと思うんですけど、今回のアルバムの曲はもうちょっと、リスナーに対して「ねえ、こうだろう?」って理解を求めている、求めて共有して行こうとしている。そういう力が、歌詞の断片からとても聴こえてくるんですよね。
「ああ……書く前はそんな具体的なヴィジョンは持ってないんですけど、でも書き進めて行くうちに変わってきたなぁと、自分でも感じてました。今回ね、書きながら一番思ったのは、前のアルバム『イデアの水槽』とかその前の時は割と突っ走る歌詞も多かったと思うんですよ。でも、今回書いててそういうものが少なくなってきてて。で、『いいのかなぁ?』と(笑)。『わかりにくいんじゃないかな?』というようなことを凄く思ってたんですけど、それでも書けど書けどそういう感じなんですよ。なので、まぁこれはこれでいいんだな、『これは俺の最近のカラーのなのかな』と思いました。無理に突っ走ろうとしなくなったのかも、よりナチュラルになったのかもしれない。簡単なキーワードで言うと『ロック』『疾走』みたいな、そういうことをわざとやろうとはしなくなってきたんじゃないですかね」
●「ロック」という服を着なくてもいいんじゃないかな?って思ったということですよね。それは自分らの音楽的な意識に対する自信や確信が感じられたからなんですか?
「いろんな意味合いがあるような気はするんですけど、自信は間違いなく付いてきてると思います。ただそれと同時に、どんどん意味性を失う……と言うと語弊がありますけど」
●意味性はあるよ(笑)。
「いや、きっと周りの方は『ある』と言うと思うんですけど……何つうんすかね、特に何を思って音楽をやってるわけでもなくて、ただ音楽をやってるな、やりたいなと思うんですよ。悪い意味でもいい意味でもなく。その気持ちによりフラットになってきたと言うか」
●理屈じゃねえな、ということですね。
「そうですね」
●この国でもロックがどんどん当たり前のものになってきてて。ロックをやることは珍しいことじゃないし、別に不良しかロックができないわけでもない、そういう意味で当たり前のものになってきてるんだけど、それは裏を返せば、音楽そのもの自体の意識が高くないとダメだと思うんですよね、今。言ってみれば使い回しの音楽は必要とされなくなってきた―――今はそういう時代になってきてると思うんです。優秀な音楽家はみんなそれをキャッチしてるんじゃないかと思う。たぶん田中くんが突っ走るだけではなくなってきたと言うのは、世の中のことや僕とあなたの間にあるモヤモヤしたものを否定するだけでは済まなくなってきた―――。
「そうですね、うん」
●もっと何かを生み出したい、繋げて行きたいという気持ちになった部分が大きいんじゃないかなと思うんですけど。
「繋げて行きたいんかもしれないですねぇ、ちょっとそれを断言するのは気恥ずかしいものがありますけど(笑)。まぁでもそういう気持ちには徐々になってきてるのかもしれないですね」
●その辺についての田中くんなりの理由を凄く知りたいんですけど。
「だからね、俺は初期から『メッセージはない』とよく言ってたんですけど。で、いまだによく言うんですけど。『別に伝えたいことはない、書きたい歌詞があるわけではない』というようなことをよく言ってるんです。でも書いてて『ああ、これはこれでもの凄くメッセージしたいんだな、俺は』と(笑)。いわゆる世の中のメッセージ・ソングとはまったく異質ですけれども、これはこれで凄くメッセージしたいんだな、してるんだなという、そういう欲求があるということは今、凄く感じますけどね」
●「頑張れ」みたいな直接的なメッセージじゃないもので田中くんが伝えたいと思ってるもの、その根底には何があるんですか。
「そうですねぇ……あのー、そうですねぇ、どう言えばいいんでしょうねぇ……『どう言えばいいんでしょうねぇ?』って感じを伝えたいですね(笑)。たとえば歌詞を重視して聴く邦楽リスナーって、何かを代弁してもらいたがってるところは大きいと思うんですよね。自分が思ってることであったり熱い部分であったり、優しい気持ちになる部分であったりっていうのを歌で代弁されると、きっとグッと来ると思うんです。でもそうじゃない気持ちもたくさん持ってると思うんですよ。もの凄く中途半端で、もの凄く何と言っていいかわからないような気分っていっぱいあると思うんです」
●僕らの生活の8割5分はそれに包まれているよね、実は。
「そう、そのはっきりしないところを代弁したいですね、俺は。だからさっきの“discord”の話じゃないですけれども、歌詞の中にいろいろ入れてしまいたがるんですよ。喜んだシチュエーションも入れたいですし、悲しんだシチュエーションも入れたいですし。そうなると、1曲出来上がった時に単色じゃないというか、マーブル模様になるんですよね、いつも(笑)。……『こういうことなんだな』と思って。俺はこういう歌が書きたいんやなと思いましたね」
●ただ逆に言うと、その七色の、言わば抽象的な音楽性をやり続けるということは、実はそんなに簡単なことじゃないですよね。田中くんは今、音楽をモノにして商売にしてメシを食ってるわけで、そういう中で商売上手な人から「もうちょっとドカーンって世界だけで行ってくれ」だの「もうちょっとシクシクシク(切ない内容)だけで行ってくれ」だの言われることも、長い活動の中でたくさんあったと思うんですよね。でも「俺はそうじゃなくて!」っていうことを、田中くんは曲を作る中で挑戦してきたし、証明してきてるんじゃないかと思うんですけど。
「うーん、実際そんなにうるさく言われなかったほうだとは思うんですよ。割と自由にやらせてもらってたほうだと思うんですけど、それだけに逆に自分で『もうちょっとポップなほうがいいんじゃないか?』とか『もっとストレートなほうがいいんじゃないか』とか思った時期はありましたね(笑)。周りがあんまり言わないもんだから。『もうちょっとヒット曲を生み出すためにはどうすればいいのかなぁ』みたいな(笑)。で、ヒットしたもんを研究してみたりして。でも『俺がこれやってもヒットせえへんやろな』みたいな(笑)」
●(笑)。そういう意味では、今回のアルバムは自分度を凄く貫いてますよね。
「そうですね。そこは凄くはっきりと言えるんですけど。まぁ前作(『イデアの水槽』)も最高傑作って謳ってましたし、かなりいい出来だったとは思うんですけど、個人的にはこっちのほうがフラットに向かえたかな。……うん、と思いますね」
●このアルバムを聴いた何人かと話をした時に、僕を含めてみんな「今回のはいいよね」って言うんですよ。そこに共存するのは、「ロックしてるよね」っていうことなんですよ(笑)。
「ああ、それは嬉しいっすね。それは嬉しい」
●僕みたいな商売やってると、スピーカーから出てくる音でロックの毛穴が擦れるってことが嬉しくてしょうがないんですよね。だからこういうアルバムが新しく届くのは、とても貴重な機会なんです。
「そうなんですか(笑)」
●そういう作品だと思うんですよ、この『de[e´]racine[e´]』というアルバムは。ロックしてるから凄くいいなと、ロックしてるから頑張って欲しいなと思うんですけど、作っていてもそういう感触はありましたか。
「凄い手応えもありましたしね。今回、時間がかかったんですよ、1曲1曲に非常に。……ただその『ロックしてるな』っていうのは、もともと常々ロックしてるつもりではあるんですけど」
●すんません(笑)。
「ただそのロック云々っていう判断基準って凄く甘くなってて、自分らの中で。『何がロックか?』っていうことに対しては。……ということはあるんですよ」
●ここで僕が思うロックとは、ガツンとしてる。それと、勝手な音楽をやってるんだけど、目がリスナーを向いてる。その2点でこのアルバムは凄くロックだと思ったんです。
「ああ、なるほどね。その後のほうは凄く賛成できますね。ガツンとしてるに関しては、人によって印象変わりそうじゃないですか。なので、その辺の判断も難しいところだなと思いながらやってるんですどね。たとえば音色がガツンとしているのか、曲のテンポが速かったり、あるいはどっしり重かったり、いろいろあると思うんですけど」
●そうですね。後者の話なんですけど、正しい/正しくないっていうのは、日常の中でどんどん決められて行くじゃないですか。たとえば今回の“13/0.9”という煙草の曲に関しても、まぁ煙草が身体に悪いのは事実かもしれない、で、吸わない人間にとっては煙草を吸ってる人間が横にいるのはウザイかもしれない。それはそれで事実かもしれないけど、決められたことだけでは生きて行けないということは僕らの中にはたくさんあって。過ちの中に興奮もあるわけだし。で、その「いろんなことがあるんだ」ってことを鳴らすことが、ロックの役目だと思うんですよね(笑)。
「そうですよね(笑)」
●それを伝えたいことがあるってカタチで鳴らして行く、つまりメッセージになって行く。
「そうですね、だからようやく最近になって『メッセージ』と自分でも言えるようになってきましたけどね。初期の頃はそういうのをちょっと否定してましたしね。まぁ今でも否定してるのかもしれないですけど」
●なんで?
「やっぱひねくれ者なんでしょうし、ひねくれ者であることがカッコいいと思ってたところもあると思うんですよね。『天の邪鬼こそがカッコいい』みたいなところが、たぶん若い頃はあったと思うんです。今でも十分天の邪鬼だとは思うんですけれども(笑)、ただその天の邪鬼なりのメッセージはあるなと思いますね」
●それは「答えなんてないのさ」的な部分が、自分を支えていた?
「そうですね。今もそれしかないでしょうしね、きっと。だから根本的な部分は全然変わってないですね。音楽的には変わってきたり、書く言葉も変わってきてますけど、やっぱりそういう部分に支えられてやってるような気はしますけどね」
●そんな天の邪鬼が、視線だけは真っ直ぐ外に向いてる感じなんだ? 今。
「でもそれも、はっきり断言するのは気恥ずかしいですけどね(笑)」
●(笑)田中くんってシャイなの?
「いや〜(笑)、どうなんでしょうね、シャイ……自分で『シャイ』って言うのすら恥ずかしいですけどね」
●酔っ払うと結構言いたいこと言うのにね?
「それがまた困るんですけどね、自分で(笑)。もの凄い後悔するんですけどね」
●そうやってスイッチを入れてかないとダメな部分はある?(笑)。
「時々ね(笑)。だから割と歌詞の中でもぶっちゃけてるんですけど。なるべくわからんようには書いてますけどね。やっぱこう、難しいですね(笑)」
●音とビートがないと自分からは発せられないものだっていう。
「発せられないですね。いつも言うんですけど、俺、歌詞のストックって一つも持ってないんですよ。メモくらいはあるんですけど、そのメモもほぼそのまま使うことはなくて、連想ゲーム的に使うくらいで。基本的には曲とかバンドの鳴りや雰囲気がないと歌詞書けないですね、いまだに」
●じゃあ自分も含めてメンバーから出てくる音が、言葉を呼んでくる感じなの?
「そうですね。当然、普段ふつふつと思ってることはたくさんあるんでしょうけど、それを書き留めようという気にもならないですね」
●でもさ、歌詞を生むって大変じゃない。
「大変ですけどね(笑)」
●だからさ、ちょっとでも出てきたら書き留めるかICレコーダーに入れるか、それくらいやらないと歌詞だけがレコーディングから遅れるものじゃない。
「だからメモは取るんですけど、そのメモがねぇ、色褪せるんですよ、すぐに! あと、音に乗せた時にまったく意味を持ってこないんですよね、僕の場合。だから基本的に音とかバンドに乗った時に、その言葉がメロディと共にどう響くのかが一番重要で。歌詞だけが先行してるような曲は、作りたくないんじゃないですかね、自分で」
●言葉もセッションしてるんだね。
「そうでありたいですね、やっぱり。そのほうがバンドやっててグッと来ますしね」
●なるほどね。ただ、田中くんの歌詞って、文句は多いですよね。
「まぁ、文句は多いっすねぇ(笑)」
●今回も<煩わしいよ スポーツニュースは>(“VIRUS”)って言葉がポコーンと入ってたり(笑)。表現方法はいろいろあれど、昔から文句はとても多いですよね(笑)。
「そうっすね。文句と言うか、逆ギレと言うかね(笑)。まぁ勝手に憤慨するキャラなんで。何も言われなくても一人で憤慨してるタイプなんで」
●(笑)世の中面白くないわけですか。
「そうですね、もうぶっちゃけてはっきり言ってしまえば、世間が嫌いで嫌いでしょうがないですからね、昔から」
●なんでですか?
「うーんとね、劣等感かな。コンプレックスかな。わかんないっすけど」
●なんでそんなもの持つの?
「わかんないですね、そればっかりは(笑)。自信があったりする部分もあるんですけどね、根本的には常にさいなまれてる感じはします。ちっちゃい頃からすっとそうですね。逆に言うとそれがモチベーションになってたりしますしね。たぶん、それがないと書けないっすよ」
●でも劣等感って絶対に物差しがあるものじゃないっすか。
「うーーん」
●上下の下なわけじゃない、簡単に言うと。なんでその物差しを持っちゃうんですか?
「なんでと言われると難しいですけどね。しかもその劣等感って決まったジャンルだけではなくてですね、かなり多岐にわたって劣等感を持っていて。で、それぞれ物差しが違うし。……ので、常に一人で憤慨してるんじゃないですかね、俺は」
●うーん、全然わかんない(笑)。
「いやでもね、これわかんないっすよ(笑)。説明できないっすもん」
●いや、感情的にはとても共有させてもらってるんですけど、説明に向かえない(笑)。コンプレックスって誰もが持ってるものだし、話して行くと「あ、だからそうなんだね」っていう、その原因となったエピソード的なことを持ってる方もたくさんいらっしゃいますし、僕もたくさん持ってますし。
「うーん、まぁでもいろいろあるんじゃないですか、掘り起こせば(笑)。あんまり掘り起こしたくもないっすけど。ただまぁ、そうっすねぇ……どう言えばいいんかな(笑)。逆にそのコンプレックスを楽しんでるようなところもあるんですけどね、ええ加減大人になってからは」
●田中くんは結論とかカテゴライズされるところに絶対に行かない。そういう意味において、結論の世界やそこに安住する人間に対して、劣等感っていう名の闘いを仕掛けてるようなところがあるのかもしれないね。要するに「お前ら簡単過ぎる」みたいな(笑)。
「うんうんうんうん、そうっすね、そんな感じかもしれないですね。『もっと複雑なんだよ!』って言いたいですね」
●それは自分が聴いてきた音楽に対してもそういうものを持っていた?
「うーーん、リスナーとしてはどうなんやろうなぁ。単純にいい曲が好きやったと思うんですけど(笑)。ただ、勝手に感情移入しながら聴くタイプでしたね、僕は。英語がわからなくてよかったと思いますね。歌詞が聴こえてきちゃうとダメなんですよ、時々聴こえてくるワードから勝手に想像して、自分なりのストーリーをその曲に付けてめちゃめちゃ感動したいわけですよ。そんな感じで聴いてましたね」
●好きな歌は俺の歌、なんだ(笑)。
「そうですね、だから僕のテーマ・ソングは世の中にいっぱいありますけどね(笑)。人の曲でね、『これ俺のテーマ・ソングやなぁ』っていっぱいある(笑)。で、あとで和訳の歌詞を見てがっかりしたりするんですけどね、『何や、こんなこと歌ってたのかよ』って」
●(笑)なんでイギリスのロックってさぁ、あんな彼女に向けてダラダラしてるだけの曲が世界を征するんだろうね。
「いや、もしかしたら世界を征するのはそうじゃないとあかんのかもしれないですけどね。そういうシンプルなものじゃないとダメなのかもしれないなと思いますね。だから僕の立場は、それへのカウンターでもいいと思ってますね」
●こんな言葉を遣うと同意してくれないと思いながら敢えて言いますけど、それはきっと、自分が表現しているものが持っている芸術的な部分、そこに対するロマンが強いんでしょうね。
「うーん、そうなのかな。まぁロマンは強いでしょうね」
●で、それを信用してる。
「そこに関しては何とも言えないですけどね。信用してないからずっと続けているような気もちょっとするんですけどね。いつまで経っても『でけへんな、でけへんな』って言ってる感じというか。『なんでこういう曲が書かれへんのやろ』みたいな(笑)。そういうとこは強いっすね。だから自分のテーマ・ソングになるようなすげぇいい曲を聴いて、『うわぁ、こんな曲書きたいなぁ、でけへんなぁ、似いひんなぁ』みたいな(笑)」
●「似いひんなぁ」はいいじゃんかよ!(笑)。
「―――と思いながらずっとやってますね(笑)。それがオリジナリティになれば、すげぇいいなと思うんですけどね」
●グレイプバインってオリジナルな部分がたくさんありますよね。節回しでしょ、歌詞の単語でしょ、そしてリズムのグルーヴも洋楽でもなければ邦楽でもない独特のグルーヴでしょ。あとは田中くんの声もそうだし。……前の会社にいた時に、たまに仕事が切羽詰まって乗り切れなさそうだと感じると、みんなでカラオケに行って爆発したりしたんですけど、グレイプバインを歌う時のみんなの成りきり感っていうのがちょっと変なんだよね(笑)。グレイプバインの音楽って本当に独特感を生むんですよね。
「ははは、たぶんいろんな要素が絡み合ってるからだと思うんですけどね、それぞれの。それぞれのひねくれが随所に絡み合ってるからやと思うんですけどね」
●そうですよね。だから僕がこの『déracineé』からロックを凄く感じるのは、そのグレイプバインの独特感に対してバンドが開き直ったということを、作品として伝えてくれたからなのかもしれないよね。
「ああ、でも開き直った感は確かにちょっと感じてますからね。さっきの歌詞の話でもしましたけど、最近凄くフラットにやれてる気がしますし」
●音もそうだよね。今回はさらにバンド・サウンドだもんね。
「バンド・サウンドですね。今回、前作と比べて正面切ってやってる感じがしてましたからね。前(のアルバム)は勢いみたいなところも凄く強くて―――バンドが新しいフォーマットになって、セルフ・プロデュースをヒサビサにやって。でも今回は割と腰を据えて真っ向勝負でやってる感じがあったんで、そういうところは出てるかもしれないっすね」
●「俺らはこうなんだ」っていう作品だと思うんですよ。
「うん、そうっすね」
●なかなかそういうことって今できないんですよ。世の中からの風とか、自分らがこれを仕事としてるんだっていう圧力とか、そういう何かがいろんなものを修正してしまって滑らかにして行くんですよ。
「それはわかる気がしますね」
●グレイプバインだってちょっと隙を見せたら簡単にそうなってしまう―――そういうものだと思うんですよ。でもそうじゃないってことを、歌も音もリズムも全部が鳴らしてるんですよ、このアルバムは。
「うん、そうですと言いたいところですが……」
●言えーー!!(笑)。
「(笑)なかなか『そうなんですよ、今回の作品はいいでしょ!』って断言すんのが気恥ずかしいんですよね、これがまたね(笑)。いや、いい作品だと自分達でも思ってるし、長く聴けるアルバムでもあるとも思うんですよ、じわじわ効いてくるアルバムだと思う。うん、いいアルバムだと思います。ただ―――」
●その「ただ」って言う前に顔がニヤけるのやめてくれよ(笑)。
「(笑)なんかねぇ、ここでしっかり終わらせときゃいいのにね。なんかあと一言付け加えたくなるんですね、恥ずかしいんでね」
●今このスタジオに音とリズムが鳴ってたら、もうちょっと極端なこと言えるのかもね。田中くん、音楽やってなかったら何やってたんだろうね。
「何やってたんでしょうねぇ、ダメ人間じゃないっすか」
●子供の頃とか何になりたかったの?
「……子供の頃は普通のこと言ってたと思いますよ、野球選手とかガンダムに乗りたいとか。ただまぁ、物心付き始めてからなんか違うな、なんか違うなっていうのは思ってましたけどね。自分の世間に対する見方と言うか―――なんで俺はこういうふうに周りを見てしまうんだろう?という感じはありましたけどね」
●そうしたら、自分が「違うな」ってことを一番言いやすい表現に辿り着いてたって感じ?
「そうですね。音楽やるか映画を撮るか迷いましたけどね、中学1年の時に。でもギターを買ってよかったと思いますよ(笑)。ギターを買うかビデオカメラを買うか迷ったんですけど」
●映画だったらどんなのを撮りたかったの?
「当時ね、兄貴の影響で古い名作だとかオシャレ映画……たとえばフェリーニとか凄い好きで。俺も映画撮れるんじゃないかなと、若気の至りで思ってましてですね。そんなことを迷ってましたけどね(笑)。まぁそれもね、どういうふうにいいと思ってたのかはいまだに謎ですけどね、今とはまったく違う種類でしょうからね。ただ『こういうの俺でも撮れんじゃないかな』って勘違いしたとこは、可愛いですよね」
●その中一の時にギターを選択して、一番最初に鳴らした曲は何だったんですか?
「なぜギターを買おうと決意したかと言うと、野音(日比谷野外大音楽堂)のRC(サクセション)のライヴビデオを観て―――それまで僕は家にあった兄貴のRCのカセットテープしか聴いたことがなかったんですよ。それでカッコいいなと思ってて。当然カセットテープを聴いてる上では曲とか歌詞とか清志郎さんの歌にヤラレてたんですけど、ライヴビデオを初めて観た時に、chaboさんの、仲井戸麗一さんのあまりのカッコよさにヤラレて。それでギターを買ったんですよ。なので、最初に弾こうとしたのは、というか買った楽譜は、RCサクセションでした」
●で、“雨上がりの夜空に”のイントロのギター・ストロークスをかました、みたいな。
「やろうとしたんですけど、そう簡単に最初からできるもんではないので、ちゃんと買ったギターに付いてた教則本を1からやってましたけどね(笑)」
●ギター選んでよかったね。
「よかったと思いますね、今となっては。うん」
●じゃあ最後ですが、今回はライヴで盛り上がるために作った曲もたくさんあるわけで、ライヴで覚醒して行きたいね。
「そうですね、これね、実際ライヴがいいですね。レコードももちろん凄く面白いんですけど、レコードしかできないことがいっぱいあるので作ってて楽しいんですけど、それをまたフォーマットにしてライヴするのが楽しいですね」
●ライヴは何が気持ちいいんですか。
「やっぱね、ダイレクトなんでしょうね、感覚が。たとえばこうやってシラフで喋ってて気恥ずかしい部分、普段は気恥ずかしくて言えないようなことが、ライヴの空気だと表現できてしまう。気恥ずかしい表現なんかももの凄くダイレクトに出せるんですよ。だから僕はレコーディングの歌入れとかが苦手で。ヴォーカル・ブースとか……」
●もしかして恥ずかしくなっちゃうの?
「なんかちょっと恥ずかしいし、いまだに(笑)」
●あのさ、何回入ってると思ってんの?(笑)。
「いやぁ、もうねぇ、いい加減慣れろよって話なんですけど(笑)。恥ずかしいって感覚かどうかわかんないんですけど、ちょっと萎縮してるんでしょうね、潜在的にどっかで。あとちょっと閉所恐怖症気味だというところもあるんでしょうけど(笑)。大抵窓とかないじゃないですか、あれ結構ヤなんですよね。それでもかなりやれるようになってはきてると思うんですけどね」
●ライヴで自分が作ったものを野に放ってる時に、どこかで自分の存在が許されているような感じというか―――。
「それがあるんですよね、実際。こう言うとちょっとカッコよ過ぎますけど。ライヴやる時は……よく言うじゃないっすか、『ロックの神が降りてくる』みたいなことを。でもほんまにそういう感覚なんだろうなと思って。なんか凄く、居場所を感じますね。いたたまれない感じがまるでないと言うか。凄く自由にダイレクトに、どこまでも行ける気がしてますね、ライヴやってる時は」
●田中くんは音楽を作ってライヴという場で野に放って、そこで自分の中にあるLOVEとHATEのエネルギーをもう一度確かめて充電して、それでまた新しい音楽を作るんですね。
「ああ、そういうサイクルですね、きっとね。だから結構どっぷりしたディープな曲とかライヴでやってても、もの凄くいいですもんね」
●音楽人生ですね。
「そうですねぇ、なかなかいい人生ですねぇ」F


*田中和将にとってのロックとは?
「ロックとは、生活です」


Last Update : 2005年07月16日 (土) 00:58

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