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Boom Boom Satellites/中野雅之 March 24, 2005

●ラジオで一緒の仕事は懐かしいよねぇ!!
「ああ、そうですねぇ(笑)。ニッポン放送やりましたよね」
●何せオールナイト・ニッポンだったからね。5、6年前の1月の3日とか4日で。
「あ、そんな時期でしたっけ。(生放送だから)いろんなFAXが来ましたよねぇ」
●ふたりで帰省ラッシュの人に向けてメッセージ投げたりしたよね。……実はインタヴューするの、すっごい久しぶりなんだけど。中野君は変わった?
「うーん、変わったんじゃないかなぁ。こうやって喋る時も、昔だったら気負いがあったと思うし。誤解を受けるのがちょっと怖かったり、わかって欲しいっていう強い気持ちや『これは伝えておかなきゃいけない!』っていう気持ち――そういうのは空回りすることが多いんだけど――があったから言葉を選んだりしてて。結果的に固い人間だと思われることが多かったと思う」
●固い人間ではないよね。強情っぱりかもしれないけど(笑)。
「そうですね(笑)、意固地かもしれないけど。とにかく凄い真面目でストイックにやってる人間だっていうパブリック・イメージ一色だから、普段の僕らを見たらみんな結構びっくりするんじゃないかと思う。普段はくだらない会話の中からもの作りのきっかけを探ってくような、そういうくだけた時間がほとんどなんですよね」
●でもブンブンサテライツの音楽って、ダンス・ミュージックの喜怒哀楽から一切逃げないし言い訳もしない音楽だと思うんですよね。
「うん、それは今でもそうですね」
●ですよね。ダンス・ミュージックって“喜”と“楽”とは凄くハモリがいいし、パートナーシップが組める音楽なんだけど、でも“怒”や“哀”というものに対しては、どちらかと言うとなかったことにしてしまうと言うか、「それを越えていこう」っていう一言で片付けてしまうもののほうが多いですよね。でも、中野くんはそういう世界にいながら怒りと哀しみというものと真っ向から向き合ってる。だからこそ、ブンブンサテライツの音楽は怒りと哀しみを響かせるビート・ミュージックという部分が強調されて聴こえてくるんだと思うんだよね。
「そういう感覚はやっぱり強くて。それが『UMBRA』のタイミングから強くなってきてる。まぁその前も、そもそも最初の12インチを出した頃から、ビッグ・ビートっていう大きな潮流に対してはカウンターを当てていく感覚でやってたし。これは性格的なものだと思うんですよね。まんま王道のことはやりたくない、カウンターを当てるにしてもかなり切れ味の鋭いものを当ててくほうがカッコいいなって思ってて、そういう男的に憧れる存在になろうと頑張ってたところがあったから。ただ『UMBRA』の時からもうちょっと、政治的って言ったら大袈裟だけど、思想的なものが色濃く出てくるようになって。たぶんそれは危機感みたいなものだと思うんだけど。その頃ってダンス・ミュージックが凄い好調だったから、そういう人達を見てて感じてしまったものが出てきてたっていうか」
●僕は今回の『FULL OF ELEVATING PLEASURES』というアルバムは、本っ当に申し分のない、ブンブンサテライツの最高傑作だと思うんですね。このアルバムはきっと、ブンブンサテライツが鳴らしたい本質的なものと僕らリスナーがブンブンサテライツにこれを鳴らして欲しい!と思ってたものが、凄くいいバランスで表現されてるからこそ、これだけ最高傑作になってるんだと思う。だから今日はいろいろ聞きたいなと思うんだけど。
「はい」
●ブンブンサテライツが一番最初に登場した時は、打ち込み音楽でありテクノでありクラブ・ミュージックでありっていうものがポップ・ミュージックの中に一番カッコよく入ってきた、そして一番メイン・ストリームな時代だったと思うんだよね。そういう時代にブンブンサテライツは音を鳴らしたわけだけど、でも『UMBRA』というアルバムは、当時の「ロックじゃなくてテクノやクラブ・ミュージックだろう」という世の中の流れに逆行するようなアルバムで。あの頃の中野くんは、打ち込み音楽でグランジをやるというか、痛みや哀しみや絶望に対して敏感な音楽を鳴らすという方向にダイヴしていったように思えたんだけど。
「はい、それに対しては本当に賛否両論ありましたけど」
●(笑)外国のレーベルも巻き込んでの賛否両論だったもんね。
「うーん、本当にあれは波紋を呼んだなぁ。レコード会社のディール一つとっても凄く大変な思いをしたし。ビジネス的な観点で見れば、取るべき選択肢ではなかったんですけどね」
●あの時、当時ブンブンサテライツに対して国内よりもずっと理解度が高かった外国のレーベルのほうが、向こうから「今作はちょっと重過ぎる」って言って引いてったじゃない。俺はあれは別の意味で凄いと思ったけどね。
「ああ」
●ヘヴィな音楽がたんまりある外国のレーベルの人に、「ここまで重くなくていいんじゃないか」って思わせてしまうだけのものを、この国の人間が低音と思想として鳴らした。それはもの凄いことだと思ったんだよ。
「若さのなし得たところではあると思うんだけど。かなり無鉄砲なパワーがあるからね。鹿野さんはあれを聴いてグランジって言ってたけど、グランジって本来自然発生的に生まれるものだと思うから。トレンドとして鳴らすグランジとオリジネイターが鳴らすグランジは、まったく発想が違う。『音が出てしまう』っていう、『UMBRA』はそういう感覚で出来たところがあって」
●当時なんであんなにもあからさまに混沌と迷いと、その根底にある怒りっていうものを鳴らそうと思ったんだと思う?
「あんまり嘘がつけなかったんじゃないかと思います。僕はあの時イギリスにいて、外国人だったから。イギリスで外国人として生きるってことは、日本で外国人として生きることほど生易しいものじゃなくて。そこから感じ取るものが凄くいろいろあった。かなり多感だったと思います、あの頃は。楽しいこともいっぱいあったけど。音楽を作ってる仲間みたいな人も周りにたくさんいたりして」
●タルヴィン・シンのスタジオとか近くだったんだよね。
「そうそう。犬も歩けばミュージシャンに当たるっていうくらい、ミュージシャンやDJがたくさんいたから。そういう中にポツンと入っていって……イギリスって音楽で生計を立てようという欲望を持つ人が日本なんかの比じゃないくらいいるし、成功に対する欲が凄い強いんですよね。だから普通あんまりアマチュア・ミュージシャンが言わないような、『いかにコマーシャルなものを作るか』っていうことと『自分が本当に好きなものは別のところに取っておく』っていうことが、音楽を作るという会話の中に日常的に出てきて。その頃はそれにあんまり馴染めなかったというか、世知辛い感じもしたんだよね。―――で、当時はツー・ステップが全盛期だったのかな」
●クラブ・シーンが凄く浮かれていた時代ですよね。
「そうです。イギリスはもう好景気真っ只中で。僕の中の『イギリスの音楽は不景気の中でのワーキング・クラスの支えになっている』という幻想もこれっぽっちもなくなってたりとか」
●「俺達にはサッカーとロックしかないんだ!」みたいな神話性がぶっ壊れた時代だったよね(笑)。
「そうそう、そういう一昔前の感覚はもうなくなってたから。でも、景気がいいからっていい世界になったかって言ったら、満たされているのかって言ったら、そんなことは全然なくて。……で、スタジオの中で『どこに向かっていこうか?』って道標みたいなものを探すんだけど、その時やっぱり内側に目を向けたんだよね。……内側に入っていくっていうのは響きとしてあまりにもネガティヴだけど、でも『見る』っていうこと自体は凄く大事なことだなと思って。国にしろ何にしろ、個人の集まりでしかないわけで、じゃあ一体自分のことをどれくらいわかっているんだろう?って。川島(道行/Vo&G)もそういうことを随分考えてたし。……禅問答みたいなことではあったんですよね。だいたい朝までスタジオでがちゃがちゃ音出したり作ったりして、まぁ昼からパブで飲んでそういう話をして(笑)、で、家帰ってみたいな。ずっとそういう感じで。たまにクラブとか行ってみるんだけど、大概はそんなに面白くなくて。でもインド人が多く集まるレイヴのパーティみたいなところには凄く求めていたものがあった。トレンディーなクラブとかにはもう俺の欲しいものは何もないっていうか。ちょっと怖くなるくらい何もなかった」
●あの当時のリズム・ミュージック、ダンス・ミュージック、クラブ・ミュージックというのはカップヌードルみたいな音楽だったと思う。カップヌードルのように人を簡単に満たしてあげる――2時間後にはもうお腹空いちゃうんだけど、そういう音楽だったと思うんだよね。その本場で、中野君は出口のない音楽――僕は当時のブンブンサテライツの音楽は出口を求めない音楽だったと思うから――を作ろうとし続けていたわけじゃない。本当にあんな状態の中にいてよく作品が生まれたと思うし、言い方変えるとあの中でよくダンス・ミュージック、リズムを打つ音楽を作るっていう気持ちになれたと思うんだよね。
「なんでだろう…………どっちにしても残していかないと生きた証にもならないから。自分がやったかどうか、生きたかどうかっていう判断は残ったものにしか見出せないから。だからどうしても今の自分を置いていかなきゃいけない。ここまで正直にやってると……(笑)まぁここまで正直にやってる人は少ないんじゃないかと思うんだけど」
●はい(笑)。
「(笑)。だからね、要は作品を評価する時はイコール僕という人間そのものを評価しているのとまったく一緒になってしまう傾向があって」
●中野君にとっては自分の作った音楽が値踏みされるのは、自分が値踏みされるのと同じだってことだよね。
「うん、まったく同じ感覚で。だからつらいことが多いんですよね。やっぱり人間だから愛されたいと思うわけだけど。まぁ悪態ついてる子供ほど、実は愛されたいと思ってたりするじゃないですか。なんか今思い出すとそういう感じだったなと。そういう振舞い方をしてたと思う」
●今回の素晴らしいアルバムで、音楽を表現するという気持ちの部分でブンブンサテライツは大きな転換を果たしたと思うんですね。それはどういうことかと言うと、『UMBRA』と『PHOTON』という2枚のアルバムでは、ブンブンサテライツは自分というものを見つめ、そしてそれと同じエネルギーとパワーで世界というものを見つめて、その中で起こった面白くないこと・人々が麻痺してしまっていることに対して、告発みたいなことをしていたと思うんですね。でも今回のアルバムは、『ここはこんなに乾いてるんだ』ってことを乾いた音で鳴らして告発するんじゃなく、『ここはこんなに乾いてるんだ、だから僕の音楽で水をまいて潤したい、もっと優しい気持ちで自分の音楽とこの世界の中で繋がり合いたい』という、そういうものが音楽になってる気がするんですよね。
「まさにそういう話はよくしていて。やっぱ優しさが必要だとか、包容力というか……すべての現実を正確に単純な善悪に分けるということが不可能な世界になっているから、だからそこで本当に『これだけは間違いなく正しい行為だろう』とか『正しい気持ちの在り方だろう』とか、そういう絶対的に信じて大丈夫なものを作ろうとしたわけなんだけど。やっぱり凄く厳しい部分に目は行くわけですよね。ただそれは表面に過ぎなくて、その裏にどのくらいの情報があるのか把握できない。だから何をすればいいかわからない。そういう怖さが僕らの中にも生まれてきているような状況がここ数年で。そういう時だからこそなおさら、音楽っていうのが凄く大事な時なんじゃないかと思う。音楽で夢想するんではなくて、もうちょっときちんと現実的なところで考えて、その最良の手段として音楽を使おうっていうふうに思った……まぁ言葉にすれば固くなりますけどね」
●それは夢見る世界に逃避するわけでもロマンティックの中に逃げ込むわけでもなく、リアルな感情を何か化学反応が起こるように変えていく、それが音楽だってこと?
「うん、そういうこと。何て言うのかな、本当に凄くシンプルな発想で。人が一人立っているために必要な力を得ることができる、そういう音楽になればいいなと思ってたんだけど。どうなんでしょう?」
●いや、これを聴いてると立てるし、これを聴いてると歩けるんだよね。言論は人を立たせてあげることができるんだけど、なかなか前には進ませられないんだ。とても難しい(笑)、意義は深いんだけどね。でもビートっていうのは人を進ませることができる、素晴らしい宝物のようなものだと思う。中野君はその宝物のようなビートを鳴らしてるんだと思うんだよね。自分が前に進むために、人を前に進ませるために。
「うん……これでまたパブリック・イメージが固くなってしまう(笑)」
●ははははは! 悪かったな!!
「いや(笑)。でも確かに真面目に考えてますし、そういうことを大事にしてる。そういうところから目が背けられなかったから、波が来ているシーンに乗っかることができなかったわけだし」
●そうなんですよ。ブンブンサテライツはここしばらくの間、凄い音楽なんだけど、メッセージとしては「放っといてくれよ」っていう音楽を鳴らしていたと思う。それはアートとしては価値があるよ。だけど、それによって何かを変えていくことやコミュニケーションを交わすこと、リズムが持っている力を最大限使うというところに対しては、中野君自身の中でクエスチョンマークをつけながら音楽を作ってたんじゃないのかなと思うんだよね。ただ、今のブンブンサテライツの音楽は、いろんなものを受け止めてるし、いろんな人からもらうパワーもポジティヴに受け止めてる。だから凄く素直(笑)。
「うん。あとはなんか、今回のアルバムは母性みたいなものを大事にしている」
●…………どうしたの?
「いや(笑)、どうしたのってわけじゃないんだけど。一人称で男のヴォーカリストが歌うのと、複数の男女が混声で歌うのとでは、1個の言葉の意味やメッセージの届き方、受け止められ方がちょっと変わってくる。だから包容力のある雰囲気作りは必要だなというか、そういうことをしたいなと思って」
●今回のアルバムのトップの曲には拳を握り締めた天使の歌声みたいな、そういう女性の声が入ってますよね。あれは何を表したかったんですか? あれが母性なんですか?
「うん、母性も入ってますね。……なんかユナイトしている雰囲気だったりとか。1曲目の“RISE AND FALL”はポジティヴな曲でもなければネガティヴな曲でもない、浮いたり沈んだりっていう不安定な心情なんだけど、そこにみんながいるんだっていう、それこそレベル・ミュージックみたいな雰囲気を必要としていて。で、スピード感もあるでしょ、あの曲は。だから後付け的なことになっちゃうかもしれないけど、時間の流れが速い中でメロディ自体はスロウだっていう、あそこに今は身を投じられるんじゃないかなと思う。僕自身はそうなんですよ。凄い高速なビートや強いフィルインが繰り返し入ってくる中に、凄いウォームに包まれる感じも同時に混在していて。そこで心地よく過ごしていくことができるんじゃないかっていう感覚を、あの曲には込めてるんだけどね」
●中野君は、スピード感のあるビートの中にも混沌やままならないことが詰め込めるんだっていう信念を持って、音楽を作ってるよね。
「そうですね。たぶんどの曲も1元的に見える曲っていうのはなくて。『これはハード・コアです』とか『これはテクノです』とか……そもそも音楽をジャンルでばさりと言い切ってしまうことほど哀しいことは僕にはないんですよね。ジャンルって音楽じゃなくてスタイルだから。その曲自体はスタイルではなくて生活の一部なわけで、そこに投影するものそのものだから。それをハード・コアだとかってジャンルで片付けられてしまうのは凄い怖い。……特に今回のアルバムはリスナーが自分の身を放り込みやすいスタンスっていう部分に気をつけて作っているんですよ」
●本当にそうだと思う。最近のアルバムと比べると凄くスピード感があるんだけど、でも特急電車みたいにただ単に目の前を通り過ぎてくんじゃなくて、凄いスピードで駆け抜けながら手を差し伸べてくれるから、僕らはそこに乗れるんだよね。精神世界を音楽にしようとしていながら、よくそこまで達することができましたよね。
「でもそういう音楽って稀にあるじゃないですか。本当に音が鳴っているっていうちょっとした現象なんだけど、凄く旅ができたりとか、いろんな体験ができる可能性があって」
●わかりやすく言うと、セックス・ピストルズの“ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン”は、僕らに「NO」と言えるパワーを授けてくれたし、僕らを「NO」と言えるバスに乗せてくれたし。ニルヴァーナの“スメルズ・ライク・ティーン・スピリット”は自分が落ちているということを正直に告白する勇気と拡声スピーカーを、僕ら一人ひとりに配ってくれた。そういうことだよね。
「セックス・ピストルズにしてもニルヴァーナにしても、それを気持ちいいってレベルで伝えてくれたことが凄く大事だと思うんだけど。その気持ちいいって感覚を大事にしてるんですよね、今回は特に」
●それは中野君が気持ちよくなりたかったの?
「気持ちよくなりたかったですね。……うん、それはそう」
●それは世界が気持ちよくなってないからですか?
「そういうふうにシンプルに思っているところもあると思うな。何というか、『UMBRA』を作ってた時はまだテロも起こってないし戦争も一段落してる時期で。21世紀に向かってカウントダウンしてる時期だった。でもそれに対して『これで大丈夫なのかな?』って思う警戒感みたいなものを感じながら進んでいたところがあったんですよね。で、いよいよいくつかの事件があって、より不透明な、すごくいろんなことがわからないっていう状況になって。それでじゃあ必要なものは?っていうふうにシフトしてきたところはあると思うんですよ。……今、正しいものと正しくないものを完全に突き詰めて『これが正しい!』って言ったとして、それを受け止めることができる人がいるのだろうかって思う。だったら凄く乱暴な話、それが正しい/正しくないはどっちでもいいじゃないかって。どっちかが正しいって言っても、それを正しくないって言う人は絶対にいるから。右か左かっていうそんなことよりも、もうちょっと気持ちそのものを大事にしなければいけないんじゃないかと思うんだよね」
●いろんな価値観があって、それは変えようもないことで。であるならば、そういう中で気持ちが動くもの、音楽としての意味が感じられるもの、そういうところに対して音楽は鳴るべきだし――。
「そうですね。だから言ってみればプリミティヴな方向なんだと思う。逆にそういう感覚しか共有できるものがないというか。そういう感覚こそ今一番大事なものなんじゃないかな。ま、それは音楽以外にもいくつかの手段はあると思うけど」
●この作品のポジティヴさとスピード感は、中野君自身が音楽の役割を改めて肯定していく作業の中で生まれてきたところが大きいんだね。
「まぁ夢みたいな話なんだけど。だってやっぱり、ジョン・レノン一つとってみても、凄く疑わしい眼差しで見てた自分ていうのは過去にいるし。何て言うのかな、テクノが機能的な音楽だっていうのは出てきた当時凄いわかりやすい話だったんですよね、僕にとっては。つまり音そのものだから。それをどう捕まえてカラダに取り込むのかみたいな。でもそっから話が飛躍してくとパラダイスがあってみたいな話になっていくけど」
●楽園思想になっていくよね。
「うん。そこまで行くとわかんないというか、そんなはずはないというか(笑)。不幸な奴は不幸なままだと思うし。そうやって何かにつけて妄信的にはならず、自分なりに検証してみたり考えてみたりしながらやってきて、で、今この時に結果としてこういうアルバムが出てきてるってことだと思う」
●今話を聞いてて凄くわかったんだけど、楽しい音楽だけが音楽の楽しさを伝えるわけじゃないんだよね。悲しい音楽も楽しい音楽も、悲しいとか楽しいってことよりもそれが音楽であることが大事で。音楽が音楽としてとても素直に音を出していったら、その音楽というもの自体が楽しいんだろうっていうかさ。
「ああ、なるほど。ウォルラスっていうバンドのベースのカオルがよく僕のスタジオに遊びに来るんだけど、たまにセッションしたり、鍵盤があったりするとポロポロンって弾いてみたりとかしてて。で、その時にたまたま僕が弾いたりするピアノなりオルガンなりの感じが、どう聴いてもちょっと物悲しかったり憂いがあったりするって言うの。だけどちょっと感動的でもあるって。で、『お前は幼少期とかにもの凄い悲しい体験でもしたのか?』って俺に聞いて来るんだけど。ウォルラスっていうバンドも凄く悲しみっていうものを全面に出した曲があったりして、悲しみには敏感な人達なんだよね。それに対してカオルは『俺は育ちという意味においてつらい経験をしてきた。たぶんそれが自然と色濃く出てきてしまう』って言ってて。俺の場合は、思い返してみると割と恵まれた環境に育ってるし、これと言って致命的に心に傷を負うようなこともなかったんだけど、でもフラストレーションは常にあったのは覚えてて。俺はどっちかって言うと怒りとか苛立ちとか、それに対しての癒しを欲する感じっていうのが子供の頃にあったなぁなんて思い出しながら話してて。で、そもそも、俺達の音楽が暗いって周りから指摘を受けるっていう話になってって」
●(笑)。
「『俺、暗い音楽作るの止めてくれみたいなこと言われんだけどさ』みたいな話してたら(笑)、『でもさ、暗い音楽っていうのは大事なんだぜ』って言い出して。『だって、みんなわざわざ悲しい思いを追体験するために悲しい映画を観るじゃないか。それは自分の過去と照らし合わせて、そこで何かと一致させたりその時の感情を思い出したりすることによって、その次のステップに進もうとするための行為なんだ。そのために、みんなわざわざ足を運んで悲しい映画を観るわけだから、だから悲しい音楽や暗い音楽がそもそも絶対的に悪いなんてことはあり得ない話だし、凄くナンセンスだ』って言われて。それは僕もわかっていた話ではあるんだけど、改めて人から言葉として言われて妙に納得した。やっぱりそれは間違ってることじゃないな、むしろ大事な要素だなって思えた。……もちろんそれだけがきっかけではないけど、何もかも捨てて新しいものを作るんじゃなくて、今まで通ってきた道を筋立てて、今やるべきことを考えることはできるなって思ったりして。だから感情的には色彩豊かなアルバムになったんじゃないかな」
●なんで人は暗い自分に対して暗い音楽を投射することで浄化されたりするのかなっていうのが本当に不思議ですよね。暗い自分に明るい音楽を流し込めば浄化されるっていうものじゃないんだよね。俺達はそんな簡単じゃないっていうか(笑)。まぁだからこそ音楽が必要なんだと思うんだけど。
「音楽って、暗い時とか悲しい時に人と会ってどうこうしてっていうのとはまったく関係が違うじゃないですか。音楽と向き合うのと慰めてくれる人と向き合うのとは全然違う。そこがまた、音楽のいいところだと思うんですけど」
●中野君はこのアルバムの中でビートの快楽の中に帰ってきたと思うし、ビートの魅力の中で音楽を作ることを楽しんでいるような気がするんですよね。
「うん、間違いなくそうですね。生命力のあるビート感みたいなものを意識してます。そこには何の抵抗もないですね。ここ2年くらい、国内や海外のフェスとか、あと何だかんだ言ってロンドンでもいっぱいライヴやったんですけど、どのライヴも大体リアクション的には一致してきたんですよね。前は海外とかは物珍しいものを観る感じで興奮している人、見たことないものを初めて見てびっくり!みたいな人が多かったんだけど、最近はみんなもっと音楽的に入り込んでくれて、フロアがクレイジーな状態になってて。オーディエンスの雰囲気が東京もロンドンも変わらなくなってきたなって感じるんですよね。それはオーディエンスが変わったんじゃなくて俺達が変わったんだなって思うんですよ。あと、フェスティバルっていう人数の大きな場でやる時に……何て言うのかな、小箱でやってたライヴをそのままフェスっていう大箱に持ち込むと、水に赤いインクを垂らすとパァーっと広がっていく、あれと同じような感覚があるんですよね、しかも凄いいいヴァイブだったりして。みんな笑顔だし僕らも気持ちいいし。なんかこう、正しい道を歩み始めてる気がする。前はステージとフロアの間の緊張感みたいなものが、僕らのライヴの特徴的なところだったと思うんだけど。そういう壁――それはいいも悪いもないんだけど――はなくなってきてる」
●前のブンブンサテライツのライヴって不思議な空間だったよね。4つ打ってんのにみんな踊らない、それでライヴが成立してるっていう。
「そうそう」
●しかも中野君も川島君も、自分らの音楽の立ち位置はそういうものだと思ってるっていう。
「はは、なんかでも、いつも納得がいってなかったところはあって。僕らが身の置き場や立ち振る舞いをわからないぶん、みんなもわかんないみたいな。でも考えようかみたいな感じで。あと、とにかく音楽フェチだったこともあるし。とにかく誰もやったことのない感覚みたいなものを体験させようだとか、そういうことにいきり立っていたというか。そういう意味では、今はもっとレイヴっぽい雰囲気がある」
●そうだね。今のブンブンサテライツの音楽とそれを受け取る僕らは、思考を捨てないでも踊ることができるし、苦しみから逃げなくても音楽の中から楽しみを感じることができる。そういうことへのきっかけを、ブンブンサテライツは今回のアルバムで鳴らしてると思うんですよね。
「うん。特にこの感覚っていうのは、日本人が一番――日本人ってやっぱり何だかんだ言って凄く繊細なんですよ。常にいろんなことを気にしているし、あとやっぱり優しいし。そういう感じは大事にしたほうがいいと思う」
●(笑)。
「大雑把にしないほうがいいと思う」
●元外国人としてアドバイスを(笑)。
「いやいやいや、外人じゃないけど(笑)。音楽をいろんな角度から見る能力をそもそも兼ね備えていると思うから。だからいろんなシチュエーションで聴いてもらいたい。楽しい時もそうでない時も、何かしら与えてくれるものになってると思うから」
●たぶん日本人っていうもの自体が凄くオルタナティヴ――折衷してるっていう意味でね――なものなんだろうね。だから僕らはこういういろんな要素が含まれている音楽というものを素直に、一つに括ったりせずにいろんな意味で楽しむことができる。中野君自身もそういう日本人としての自分に素直になって音楽制作に向かっていったっていうことが、このアルバムを生み出している一つの要因でもあるんだろうね。
「はい。まぁ特に意識することもなかったしね、そういう意味では。ただ、いい土壌があるっていう雰囲気は常に自分の中にあったし。引っ越して東京に帰ってきてるっていうのも、またちょっと地に足が着いた感じというか。何て言うか、昔は踵が浮いてる感じはあって、その緊張感を楽しんでるところもあったから。……変な話だけど、東京ってやっぱり故郷だなぁって思う」
●おぅっ。東京故郷説は、最近なかなか聞かなかったセリフかもしんない(笑)。
「東京帰ってきたなーって思うんだよね(笑)」
●このアルバムの音楽は突き抜けてると思うですよね。そういうものを自分らが鳴らした、その上で生まれてきた答えみたいなものはありましたか?
「答えね……僕的には作っている時から目標としてることはちゃんとあったから、『これで正しかったんだ』って思えればそれが答えなんだけど、でもそれはリスナーが決めること。もしこれが共通言語として、僕らと聴いてくれた人達の間で共有できれば、それは成功したことになるし」
●中野君は今凄く楽しみたいんだろうね、音楽というトゥールを使って。
「うん、そう。で、しかもアルバムを1曲1曲の集合体っていう時間の捉え方でシャッフルしてしまうんじゃなくて、一度でいいから、1時間弱だけど、一つの体験として是非体験してもらいたい。ちょっと貧しく感じるんですよね、シングル・コレクションみたいな感じでハード・ディスクで聴いたりするってことは。やっぱりポップ・チューンだけを連続して聴いているだけでは満たされないものがあると思うし、アルバムを作ってる人達ってもっといろんなものを見せようという意図を持った人達が大勢いるから、またそこに戻ってきてくれないかなって思う。それは一音楽ファンとして思うことです」
●それだけ音楽ってものはドラマティックだし神話性の高いものだってことですね。
「そう。きっとなくならないだろうしね。ミュージック・ビジネスがなくなっても音楽は絶対になくならないと思うから」
●鳴り止まない?
「うん。システムが変わればビジネスの形態も変わってくるからCDの売り上げが減ったわけで、それはイコール音楽を作ってそれを糧に生活をしていく人の数が減ったってことでもあるから、きっと損している部分はたくさんあると思うんだ。でも音楽自体はなくならないでしょうね」
●その心は?
「やっぱり、聴きたい音楽をどうしても作ってしまう人はいると思うし、それを求める人はいなくならないだろうから。むしろだから、活発になるのかもしれないよね。僕もその辺素人だからわかんないけど、でもそれってお金とか商売とか絡んでない分、純粋な欲求じゃないですか」
●はい。……えー、「聴きたい音楽を作ってしまう人がいる」。この発言は凄い。凄い感動的に本質だと思う。
「まぁ僕がそうだからね。やっぱり聴いてみたいって思って作ってるところがあるから。そういうミュージシャンはたくさんいると思うけど。聴いたことがあるような感じの曲を作ってみたい人もいっぱいいるよ、『僕もあの人みたいなヒット曲を作ってみたい』って言う人もきっといるだろうけど」
●音楽が本能というものを持ち得るすべての理由がその一言だよね、「聴きたい音楽を作ってしまう」。凄い言葉をいただいた。ありがとう。最後に聞きたいんですけど。中野君はなぜ、リズムというものを必要とするんだと思いますか?
「なんでだろう……運動神経と脳が直結してるような感覚なのかな。うーん……僕リズムも好きだけどハーモニーとかメロディも同じくらい好きで。でも確かに僕が作るリズムは世の中全般から見たら凄い特殊なものだろうし、職人っぽいところもあると思うけど。なんでだろう、でもダンスするのが好きだったし。……ダンスするのが好きだったって、笑えるね(笑)」
●いいじゃん(笑)。
「うん(笑)。子供の頃から好きだったんですよね。体で感じる部分ってあるじゃないですか、そういう楽しさっていうか。それでデトロイトとかシカゴからテクノとかハウスとか出てきた時とか『やっぱりこれだ! これっきゃない!』って思って12インチ買いあさりましたからね」
●そこから聴いたことがない音楽を作りたくなってしまう自分が出てくるわけだよね。
「なんかね、その後あまりにそれがフォーマット化されてくから。誰も決めたはずのないルールが存在している、いつのまにかDJがかけやすい曲を作るとか。でも聞くところによればラリー・レヴァンは何でもかけてたって言うじゃないかって」
●うん、うん(笑)。別にDJのために音楽を作ってるわけではないし――。
「そうそうそう」
●DJはDJで、安易に繋げられる音楽だけを繋げることによって成立してるって考えるのはおかしいぞ、と。
「そう。当時はそのくらいのことを思っていた節があるな。最初にR&Sから出した12インチに入ってる“4 A MOMENT OF SILENCE”って曲は、やたらめったらブレイク・ビーツをひっくり返したりズタズタにしたりしながらフッとダンサブルなシーンに戻ってきたりとかやるわけなんだけど、当時、レーベル的にはブレイク・ビーツとかビッグ・ビートとかってところに放り込もうとしてやってる。でも俺らはわざわざそういうことをするわけで。今振り返ってみると、反抗期の子供みたいだなって思う」
●でもね、これは総論になっちゃうんだけど、ブンブンサテライツの曲の中で1、2を争う人気曲である“PUSH EJECTモっていう曲は、あれは踊れないんだよね。
「うん(笑)」
●あの曲はブンブンサテライツの二人が電子音楽を好きな人達に向かって投げた挑戦状である音楽だと思うし、で、それを受け取った人が、踊れない音楽だけどこれは大好きだ!っていうふうに感じた。そこでブンブンサテライツの音楽のコミュニケーションは成立してるわけじゃない。僕はそれは音楽にとってもブンブンサテライツにとっても幸せな状況だと思うし。やっぱりあなた方の音楽はそういうものをもたらすパワーを持った音楽なんだと思いますよね。
「まぁいっつもギリギリなんですけどね。だから性格なんでしょうね。どうしても出てしまう人間性っていうか。しかも僕らが音楽を作る環境って他人の手が一切入らないから。通常のレコーディングだったら、バンドは作曲して演奏するところまでが仕事で、それ以外のエンジニアなりアレンジを詰めてくアレンジャーなり、もっとオブザーバー的なプロデューサーだったり、もっとメイカーという責任を背負ったディレクターがいたり。それぞれの思惑とか好き嫌い、売れるか売れないかっていうこととか、とにかくいろいろなものが入ってくる。それが僕らの場合は二人とか三人とかの密接な世界ですべてが組み上がっていく、だから無菌状態なんですよね。ぽんと世の中に出てきた時には無菌状態なんですよ。まだ汚い手では触ってはいけない状態というか。まぁ本当に、これをメジャーのレコード会社の下でリリースできてるってことは本当に幸運なことだと思うんですけど」
●そうですね。だからこそ感染しないように気をつけないとね。
「ははははは。いや、まぁそうですね」
●自分も、自分の音楽も、両方ともね。
「まぁその心配はなさそうだけどね(笑)」
●いやぁ、このアルバムは本当にいい。売れますよ。絶対に売れます!
「売れるといいなぁ……」
●売れますよ、みんなが感じられる音楽だもん。だからこれからももっともっと、ビートも、ビートの中にある観念も、両方見せて欲しい。
「そういう欲は未だに増えてるんですよね。音楽に飽きることとかないんですよ……不思議ですよね。先輩の方とか見てると、年を取るにつれて、聴くものが学生時代に聴いてたもので止まってったりとかする人も多いですけど、僕はまだまだ新譜に興味があるんで」
●音楽っていうのは年を取るにつれてその楽しみがどんどん聴こえてくるものだと思うし、鳴らせるものも増えてくものだと思うんだけどね。
「うん、そんな感じ。まさにそんな感じだと思います(笑)」F


*中野雅之にとってのロックとは?
僕にとってロックとは、生命です。

Last Update : 2005年03月27日 (日) 3:47

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