EURO 2004 in ポルトガル Day 7

Day 7
June 28, 2004

 結局、喧嘩したおばちゃんとは顔も合わさずにホテルを出た。こんな想いは旅の中ではこれだけにしたいと強く思いながらまずは市場へ行った。野菜から肉、そしてワインまで。すべてが揃う市場は活気に溢れているわけでもなく、ただただそこにすべてがあって、消費されていた。その当たり前の感じが逆に日常の中での「食」の大きさを感じた。中には鳥かごの中に鶏から鳩からウサギからヘビが入って並んでいる店があった。勿論、飼うためではない。喰らうためにそこに陳列されているのだ。中国の自由市場を思い出した。あそこは猿やら猫やら犬まで売られているので、僕にはさすがにキツかったが、中国が道端で捕まえた犬をそのまま売って食べるように、ポルトでも公園で捕まえた鳩がそのまま売られて調理されていく。その本能的な食に対するエネルギーを淡々と見せつけられた想いがした。喰えるものは食べる、売れるものは売る、考えるまでもなく生きることとはそういうものだと市場は語っていた。世界の市場は現実を雄弁に語っている。大好きだ。

 レストランに入った。高級な店に入った。ここでは普通の高級な店(王族が来るような超高級店は別だが)と庶民派の店では東京ほど大きな価格差はない。だから高級な店ではイワシのような下魚は置いていないところもある、イワシまであったら何も変わらないし価格破壊が起こるからだ。イワシが食べたかったのだが、それはここで喰った直後に庶民派にハシゴすることにして、ラムを喰った。相変わらずすべての獣が、獣としての尊厳を自らの濃厚で気高い味で示している。いくら噛んでも味が流れ込んでくる。そして間髪入れずに「イワシ屋」に入った。僕は自由だ。自由を謳歌する権利(金)とエネルギー(ヴァイタリティー)と技術(大喰い:アン・ストッパブル・イート・モンスター)を貪る男だ。だから自由だ。

 ポルトガルは今、EUで最も貧困な国である。次に貧困な国はギリシャだ。つまり、2004年にユーロ選手権を開催している国とオリンピックを開催する国が、最も貧困にあえいでいるのだ。これがすべてだ。復興を賭けた、とても大きなリスクを賭けた挑戦を今年のポルトガルとギリシャは仕掛けている。というか、オランダとチェコという優勝候補の強国以外に残った国は何処か? その2国だ。負けられないのだ。負けたらすぐに貧困にあえぐ日々が―――いや、大会を開催するために観光経済効果以上の莫大な金を使って開催する両国の、パーティーの終わった後は、本当に辛くシビアな日々が始まるのだろう。せめてそこに栄光が存在していないとやりきれない日々が待ち受けているのだろう。負けられないのだ。ポルトガルとギリシャの負けられない正念場がもうすぐ始まる。決勝へ行くのは両国なのか、それとも強国なのか? 僕は? 僕は何処へ向かうのか? 樽だ。樽蔵だ。ポルト・ワイン発祥地の蔵だ。勝手に入った。セルフ・タイマーで僕と樽を撮影する。蔵全体に香り立つ甘い果実の香り。最高に恍惚だ。まるで愛する女性が僕にまとわり付いて絡み付いて、溶け合ってしまうようだ。しかし、主が入ってくる。「お前、ここで何やってんだ?」、怒ってる。しかし、もう僕はサングリアもポルト・ワインも浴びるほど呑んでいるし、なまめかしい蔵のせいで恍惚の極みだ。主も諦めたようだ。怒る気もせずにただ静かに僕を追い出した。おい、触るな、発射するぞ、今の俺は。

 いろいろな直営店で試飲を繰り返し(僕は試飲試食が大好きだ。お土産屋でのイカの塩辛の喰い比べ試食とか、最高だ。でもどの試食もほぼ最高だ。感謝の気持ちでいただいているからだ。以前、大晦日にイトーヨーカドーで試食マネキンをやっていた読者がいた。僕があまりに試食を繰り返すので声を掛けにくくなったらしいが、それこそもうよしてくれと思ったので「鹿野さん、いつも読んでいます」と話し掛けたという。が、「そっかあ、ありがとう」といいながらさらに僕が食べるので、もう感動してくれたそうだ。そう、あれは大好物のカズノコ試食だった)、もう体の中がルビー色だ。その顔で店に入ってイワシをアタマからひとりでボリボリ。みんな僕を見ている。ウエイターもこっちをずっと見ているので、何とも注文しやすい。「お〜い、アロッゾ(米)ちょーだい」―――イワシに米はつきものだろ。この米が、多分バターを入れてから炊いていると思われるが、ちょっとしょっぱくて、ちょっと芯が残っていてとても美味い。その米だけを頼んで不気味がられることが多いが、そのアロッゾを魚スープの中に入れたり、タラのソースにからめて食べたり、イワシの残りカスと混ぜて香ばしく食べたりすると、店員が喜ぶ。「お前、凄えな」って顔をする。そうさ、食は自分に合った最高のアレンジを楽しむマスターベイションだぜ。見てくれ、俺の食オナニー。今日も僕のイワシ御飯がこの国のまかない料理を変えてくぜ。

 若者が多いポルトでは、スニーカーもTシャツもPUMAが多い。若ければ若いほど、おしゃれであればあるほど、アディダスやナイキよりプーマを履いたり着たりしている。おしゃれ集団、イタリア代表のユニフォームがPUMAなのも影響しているのだろうか? どうやらここでは圧倒的にPUMAがクールなようだ。たしかにシルエットもデザインもシャープでニートだ。日本でもかなりPUMAはキているが、ここではPUMAは一時期のAPEみたいな感じだ。MIHARAYASUYUKIのプーマ靴をここで履いたりしたら、大変なことになりそうだ。

 灼熱の中。いろいろな場所でサングリアを呑み続け、呑んで酔ってひとり乾杯している姿をセルフ・タイマーでデジカメ撮影しまくる。その姿が面白かったらしく、僕の後ろをずっとファミリーが付いてくる。スリかと思った。でも1杯奢ってくれた。あー、朝からずっと呑み続けてるが、ずーっと天国だ。悪魔が突然住みついたりしない。すーっとアルコールが入り、つーっと汗で抜けて行き、でもずーっと呑んで酔っぱらって、街はそんな俺を歓迎しているぜ、いぇい。この街は素晴らしかった。もっと長居すれば良かったが、リスボンに戻る時間だ。列車に乗った。酔っぱらったまま気持ち良く乗車したが、隣に座った地元大学生のような女が彼氏とメールで喧嘩しているらしく、えらい不機嫌で行儀が悪い。足を絡めたスニーカーが、顔のすぐ横にくる。どーすんだ、お前が5分前に犬のフンを踏んでいたら。そのままふて寝したクソ女だったが、寝顔はけっこう可愛かった。これまた悪い帰路じゃなかったのだ。

 久しぶりにリスボンの前のホテルに戻る。公園に奴らがいなくてちょっと寂しかったが、ホテルは随分と混んでいた。そうか、決勝リーグになると対戦相手が事前に決まっていないから観光客がチケットを取りやすい。だからだんだんそういう僕みたいな人種が増えてきているのだ。ホテルのフロントのおっちゃんが「お土産は?」という。危うくポルト・ワインを呑まれちまうところだった。僕はとっさに自動販売機でビールを2缶買い、ひとつをおっちゃんにあげた。大笑いされた。

Last Update : 2004年06月28日 (月) 22:37


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